浦和地方裁判所 平成9年(ワ)1841号 判決 1999年7月26日
原告
千葉明男
被告
上谷正則
主文
一 被告は、原告に対し、金一九九万七〇三〇円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金四七四万七七七九円及びこれに対する平成八年一五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の運転する自動車に正面衝突された原告が、被告に対し、不法行為による損害賠償を請求している事案である。
一 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
1 被告は、平成八年五月三〇日午前六時三〇分ころ、普通乗用自動車を運転して山梨県大月市梁川町網の上七二〇の国道二〇号線を進行中、前方の車両が数珠繋ぎ渋滞していたため、故意に対向車線にはみ出して走行し、原告運転のワゴン型普通貨物自動車に正面衝突(以下「本件事故」という。)した(甲六)。
2 本件事故は、被告の過失により起きたものであり、被告は原告に対し不法行為による損害賠償責任を負う。
二 争点及び主張
原告の損害額
(原告)
1 治療関係費 金一三万四七八〇円
2 休業損害 金三四九万二九九九円
3 慰謝料 金五二万円
4 弁護士費用 金六〇万円
合計金四七四万七七七九円
(被告)
腰部脊柱管狭窄症は経年性の疾患であり、本件事故と相当因果関係がない。
休業損害の発生及び額を争う。
第三争点に対する判断
一 本件事故と治療の因果関係
証拠(甲三、四、五の1ないし10、乙三)によれば、原告は、さきたま病院で腰椎捻挫、頸椎捻挫の診断を受け、平成八年五月三一日から同年一一月一八日まで通院(実通院日数六日)し、その後、大宮赤十字病院で腰部脊柱管狭窄症の診断を受け、平成八年一一月二七日から平成九年六月一八日まで通院(実通院日数九日)したことが認められない。
被告は、腰部脊柱管狭窄症との因果関係を争うので、この点について判断する。
大宮赤十字病院の小林雅文医師は、原告は平成八年五月三〇日に交通事故(正面衝突)で受傷しており、その後に両下肢のしびれ、筋力低下、間歇性跛行の症状が出現していることを考えると、事故が誘因となったことは否定できないと診断している(甲四)。一方、五十嵐裕医師は、腰部脊柱管狭窄症が本件事故が誘因となったとする医学的な証拠はないとしている(乙六)。
思うに、腰部脊柱管狭窄症自体は加齢性のものであり、本件事故を原因とするものではないと認められるが、本件事故は、正面衝突の事故で極めて衝撃が大きかったこと、両下肢のしびれ、筋力低下、間歇性跛行の症状が出るようになったのは、事故直後であること(甲二、六、原告本人)に照らすと、原告の症状は主として本件事故の影響によるものと認められ、相当因果関係があるというべきである。ただ、症状が長期化したことについては腰部脊柱管狭窄症の影響を否定できないから、休業損害、慰謝料の額の算定にあたっては斟酌して、相当程度減額することが公平の観念に合致するものと考える。
二 損害額
1 治療費
証拠(甲五の1ないし10)によれば、原告が治療費として一三万四七八〇円を支出したことが認められるが、この額は相当な治療費というべきである。
2 休業損害
証拠(甲一四、原告本人)によれば、原告は、昭和八年一一月三日生まれで、二名の運転手を雇って荷物運搬業を営み月平均二〇〇万円程度の売上があったが、本件事故の腰痛等により、一か月半は働けず、その後も十分に働くことができなかったが、他人を雇い入れたりして営業を継続したので、売上自体は減少しなかったが、経費が増大し、原告の実収入が減少したことが認められる。
具体的な減少額が明確でないので、賃金センサスにより認められる産業全労働者の平均年収により、原告の休業損害を判断することとする。そして、前述したように腰部脊柱管狭窄症があったことを考慮し、事故から二か月は五〇パーセント、その後八か月は二五パーセントの限度に限り休業損害を認めるべきである。平成七年度の賃貸センサス第一巻第一表により認められる産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者六三歳の年間給与額四六四万万八九〇〇円を基本に算定すると一一六万二二五〇円になる。
3 慰謝料
慰謝料は金五〇万円が相当であると認める。
4 弁護士費用
本件の事案、認容額等を考慮し、金二〇万円であると認める。
三 以上の事実によれば、原告の本訴請求は、一部理由があるからその限度でこれを認容する。
(裁判官 草野芳郎)